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大貫渉-選手独占インタビュー-世界選手権に向けて

       
選手インタビュー

日本代表・大貫渉。2018年世界フィールド金メダルの衝撃はいまだ色褪せることははい。その後も彼は次なる世界チャンピオンの座を虎視眈々と狙ってきた。
昨年10月の全日本ターゲットで準優勝、今年4月の世界ターゲット選考会で見事代表の切符を手にした。
だが、大貫の2020年は決して順風満帆ではなかった。3月の2次選考会で落選、準優勝した全日本ターゲットでも予選ラウンド28位と苦しんだ。
自身の世界ターゲット選手権、そして仲間たちの東京オリンピック出場を前に、今なにを思うのか。そこから見えてきたのは、普段の穏やかな笑顔からは窺い知ることのできない、トップとしての矜持と懊悩だった。
今もっとも頂点に近い男の、波乱と飛躍に満ちた激動の1年をインタビューで振り返る。(インタビュー・本文:服部 亮)

選考会の朝、「世界選手権が中止になるかもしれない」と言われました

世界ターゲット選手権代表入りおめでとうございます。
ご自身としては実力を発揮できたといったところでしょうか?

 

大貫選手(以下同):ありがとうございます。確かに、世界選手権の選考会は結構感覚がよかったです。最終的な結果としては2位通過(1日目:317-325-331-338、2日目:334-331-345-329)。2日目の345点は(70m36射では)今まで射ったなかで2番目に高い点数。もちろんこの選考会でもフラグメントVバーとMIZUNARAグリップを使ってましたよ。
緊張はしていましたが、「普通に射てば通る」という意識をもつようにしていました。いつもより落ち着いて射てたと思います。1エンド目はいつも緊張するけど今回はそうでもなかった。結構あたってたから、だんだん途中から緊張してきましたけどね。

世界ターゲット選手権は、アーチェリー競技では2番目に大きな大会です。今回の選考会で落ち着いて射つことができた理由は?

選考会初日、行射が始まる直前に、「もしかしたら世界選手権が中止になるかもしれない」という話をされて。
正直、なんのために頑張ってきて、今この選考会に参加しているのか、わからなくなりました。もやもやとした気持ちはありましたが、もう会場にいるんだし、「とりあえず射つか」と。

代表入りしても出場できないかもしれないと知って拍子抜けしてしまった?

やっぱり、そういう気持ちがどこかにあったのは確かだと思います。あんまり褒められた考え方じゃないのは自分でもよく分かってはいるんですけど。
日本からの国際大会派遣はしばらく控えるという情報もありますし、世界選手権が開催されたとしても、状況次第では厳しい判断になるかもしれません。先のことはわかりませんが、どんな決定であれ、今の僕にできるのは自分の腕をさらに磨くことだけです。

すべてがミスに繋がる不安。試合中の記憶がないくらい、必死でした

対して、昨年準優勝した全日本ターゲット選手権では苦戦している様子でした。特に予選の日は最後のひとりになるまでシューティングラインに残っている場面も多く、誰の目にも苦悩の色が明らかだったと思います。何があったのですか?

結局のところ「自らを追い込みすぎた」ということに尽きると思います。いつもは「どうにかなるだろう」というスタンスで射つようにしてるんです。ほんとにどうしようもないときでも「まあダメだったとしても死ぬわけじゃないし」って。たとえミスがあったとしても挽回のチャンスはある。でもあのときは極度に守りに入ってしまった。
あのとき頭のなかにあったのは、ナショナルチーム選考のことでした。

 

ナショナルチーム選考会の出場資格に全日本ターゲット予選通過が条件になったのは2019年からです。とくに一昨年は夏の代表選考がかかっていましたから、すごく緊張してた。それでも、このあいだ(2020年)のようにはなりませんでした。(2019年は)それなりに対処もできて、結果としても「何とかなった」状況ではありましたから。

冷静になってみれば(ナショナルチーム選考会のことを考えるなら全日本は)予選通過すればいいだけだから、普通に射っていればよかったんです。実際これまでだって毎年予選通過してきたわけだし。1本1本のミスを追いすぎました。次も同じミスをしたらどうしよう、ここからどんどん崩れていくんじゃないか。ナショナルチームからも落ちるわけにはいかない。普段はこんなに収拾がつかなくなることはなくて。正直、最中のことはあんまり覚えてないんです。それくらい切羽詰まってました。

原因はなんだったのでしょうか?

心のどっかに不安があったんだと思います。直近でこそほとんどこれまで(コロナ禍以前)と同じように練習ができるようになってきていましたが、特に5月から6月は練習場が閉鎖されたりして必然的に練習量は落ちました。自宅での近射やトレーニングは続けていましたが、これまで毎日70m(の距離)を射ってきたわけですから、まったく同じようにとはいきませんよね。

普段通り練習できていなかったこと、道具を変えたこと、そうしたひとつひとつが悪い結果に結びついてしまうような、そういう不安がありました。

「勝ちたい」僕はその気持ちを大事にしたい

そうした苦しい状況のなか、予選を28位で通過。そこから決勝まで勝ち進みました。何が変わりましたか?

男子リカーブの予選が終わったあと、練習会場で最後まで射ってました。そのとき、自分の射ち方が変わっていたことに気づいたんです。具体的にはグリップ。僕は下押し(通常のピボットよりも下にプレッシャーポイントがくる射ち方)なんですが、気づいたらちゃんと、いや、ちゃんとって言い方も変なんだけど(笑) いつもより高いピボットあたりを押してた。

ちゃんと(笑)

そう。普段全然違うのに急にピボット押し(笑) そこが違ってたらあたるわけないだろっていう。つまりはそれすら気づけないほど動揺してたんですよね。ガチガチになって、必要以上にちゃんと射とう、ちゃんと射とう、と力んだ結果がグリップに現れたんだと思う。
で、トーナメントはグリップのプレッシャーポイントに気をつけようと。それだけを意識して射ってました。

決勝は近畿大学の桑江良斗選手との対戦でした。

決勝の相手は桑江(良斗)で、「勝たなきゃな」という気持ちがありました。桑江とはナショナルチームのチームメイトでお互いによく知った関係だし、だからこそ負けられないと。気負いすぎてしまったところはあれど、仲間だからこそ勝ちたいという気持ちはいつも持っています。

アーチェリー競技では「勝ちたい」とか「あてたい」という感情は雑念やタブーとして扱われることが多いように感じます。

こういう言い方が適切かはわからないけど、(アーチェリー最強国と言われている)韓国の選手なんか淡々と射つじゃないですか。たぶん(機械的な動作に徹して弓を射つために)やることやってるからそう見えるだけだとは思うんですけど、感情面では抑制の勝ち方ですよね。対して、世界最強のアーチャーと言われるアメリカのブレイディ・エリソン選手からは“10点にあてる”という意思を感じる。

2017年ワールドゲーム(フィールドアーチェリーの世界大会)では直接対戦されてましたよね。

まあそうですけど、僕なんかは彼からしたら「余裕(で勝てそう)な相手きたな」って感じでしょ(笑) 彼には情熱的でスターとしての格好良さがある。国際大会の会場で目にすると他の選手とは違う気迫を感じます。あんまりアーチェリーの選手にはいないタイプですよね。それがいいなと。

「あの場所で射ちたくない」率直にそう思った

SNSの投稿で目にしたんですが、最終選考を見に行ってましたね。

いままで自分が“見る立場”になったことって実は一度もなくて。初めて外から客観的に見て、緊張感のある試合だな、と思いました。自分が出てたらきっとツラかっただろうな、とも。初日の72本で1人落ちて、翌日の72本で全部決まってしまう。そんな少ない本数で決まってしまうわけだから。それに周りにはたくさんのメディアがいて、カメラを向けられている。

あの場所を目指していたことは事実で、本戦に出たかったことも本当の気持ちなんですが、素直な気持ちとして「自分だったらあの場所(選考会会場)で射ちたくないな」と感じました。それくらい、最終選考会会場は重い空気感でした。

ご自身も夏の大舞台の日本代表の切符を争うひとりでした。最終選考会を見て、改めて悔しさは感じましたか?

いえ、そういう気持ちはあの場で見ていたときも今もありません。素直に、出てる選手を応援する気持ちだけですね。最終選考を見たことで自分の中の何か(大会やアーチェリーに対する考えや気持ちとか)が変わったということは別段ありませんでした。

全員同じナショナルチームのチームメイトですから。誰が代表になってもおかしくないし、代表になった人には頑張ってほしいという気持ちしかないです。

アーチェリー以外の経験が、僕のアーチェリーを進化させてくれる

2020年3月の選考会に始まり、その後の緊急事態宣言、全日本、そして先日の世界ターゲット選考まで、怒涛の一年間だったと思います。改めて振り返ってみていかがですか?

僕、これまで「オフの日」(弓を射たない日)って作ったことなかったんですよ。でも今回の状況をきっかけにオフというのを経験してみて、「こういう日があってもいいんだ」って気づけたところがあって。

3月の選考会(東京五輪代表二次選考会。21日から22日にかけて実施された)で落ちて、正直なところ、その後2~3ヶ月はモチベーションも落ちていました。東京オリンピック出場に向けて本気でやってきた分、やっぱりショックが大きかった。でも射ちたくても射てないという状況になったことで、かえってメリハリがつきました。生まれた時間のなかで自分と向き合って、新たな目標に向けて気持ちを整理できたと思います。

とはいえ、今はだいたい月曜日がオフになるんですけど、弓を射たないにしても仕事はありますから、本当に何もしない日というのあまりはないんですけどね。

アーチェリーをしない日はどんなことをして過ごすことが多いですか?

特にこれをやると決めているものはないんですけど、家でじっとしているのはあんまり好きじゃないので車でどこかしら出かけます。買い物に行ったりとか、おいしいものを食べにいったり……。

最近はできていませんが、ダーツが趣味で、あとはたまにゴルフの打ちっ放しなんかにも行きますね。特にゴルフはやってみたら思ったよりもハマってしまって(笑) 冬のあいだは2週間に1回程度は行ってたかな。

使う筋肉や動きもアーチェリーとは全然違いそうですが、始めてみていかがでしたか?

思ったよりデメリットなかったな、というのが率直な感想。むしろアーチェリーではしない動作を繰り返すことで自分の身体の使い方がもっと理解できたから、これは本当にやってよかった。

アーチェリーのことも考えてされてるんですね。

やっぱり考えちゃいますよね(笑) どっかアーチェリーに活かせるところないかなって常に考えてます。それでちょっと気になるのが、他の(アーチェリー以外の)スポーツの選手って、例えばゴルフの選手が自転車漕いだりとか、陸上の選手がプールで泳いだりとか、自分の競技以外のこともトレーニングやアクティビティとして精力的に取り組んでますよね?

でもアーチェリーの選手って、基本的にはアーチェリーしかしてないんじゃないかな。僕がやるゴルフで言うと重心移動が大きいとこがアーチェリーとは違ったりして、逆にやるのもありだな、と。

アーチェリーしかやっていない人は他のスポーツにも興味をもってぜひ挑戦してみてほしい。一見アーチェリーとは関係のないことのように見えても、新しい発見があるはずだし、それはきっとアーチェリーにも役立つと思うから。

多くの選手が苦しいシーズンを過ごしたなかで、重要な場面で自己ベストに近い点数を射っています。今シーズンに向けてのコンディショニングについては。

今年に入ってまた緊急事態宣言があって、1月から3月頭まで拠点にしている練習場が使えなくなりました。そのあいだは近くの学校の練習場を借りたり、NTC(ナショナルトレーニングセンター)で射たせてもらったり。70mを練習できる機会は限られてるから、ナショナルチームの合宿では本数重視で徹底的に射ち込みました。冬のあいだも本数をキープしつつトレーニングに時間を割きました。

次の流行をつくる。こんな楽しいことってないよね

それにしても、昨年の1年間でずいぶんセッティングが変わったような印象を受けます。

まず大きなところでは昨年のシーズンから弓(のメーカー)をWIN&WINからMKに変えました。今のセッティングはMKSハンドルMKMXリムの組み合わせです。70インチで実質は約44ポンド。

大貫選手は高校時代からずっとWINの弓を使ってきましたよね?

そうですね。だからか、MKに変えたことで驚かれることもあったんですけど、僕にとって一番大事なのはメーカーがどこかとかじゃなくて、自分の持ち味を引き出してくれる弓を使うということです。実際に射ってみてMKのほうが僕にとっては良かった。射ったときに感じた「あたる」というイメージを信じることにしたんです。

あと、基本的に他の人と同じ弓を使うのが嫌なんですよね(笑) WINの(ハンドルの)ときもホワイトとイエローのツートンカラーにしてもらったり、フラグメントVバーや、スパイダーベイン702を使ってるのだってそう。最近でこそどちらもユーザーが増えてきている印象だけど、フラグメントは言わずもがなだし、702だって僕が使い始めたときは国内ではまだまだ珍しかった。

フラグメントVバーは正真正銘、最初のユーザーですから。お陰様で販売も順調に伸びていて、「大貫さんがオススメしてたので買いました」というありがたいお便りも届いています。

光栄です。「これは大貫が広めたんだ」って思ってもらえる、それがなによりも嬉しい。ちょっと自意識過剰かもしれませんけどね(笑)

当時開発中だったうちの可変式Vバーを、大貫さんが使ってくれると言ってくれて、ダイナスティーメンバーは全員驚いてたんですよ。ダウン角のVバーのイメージがなかったから。

そうだったんだ(笑) まあ、確かにね。でも、可変式Vバーを使ってサイドロッドを下げること自体はずっと考えてたんです。

というのも、固定式の(サイドロッドの角度を調整できない)Vバーを使ってたころはずっとフォロースルーで弓がキックしている状態で、コーチにも指摘されてましたし、自分でもどうにかしたいと考えてました。その解決策としてVバーを変えてサイドロッドを下げたほうがいいんじゃないかと。ただ、可変式のVバーは重くて。弓のバランスが変わってしまうし、その増えた重さを支えるために筋肉を使ってしまうことになる。セッティングとしてメリットがあることは理解しつつも、そういう理由で「使いたいけど使えない」という状況でした。

そんなとき現れたのがフラグメントVバー。
これなら軽くて、自分の理想のセッティングができる。実際に使ってみると、これまで気になっていた弓の飛び出しが真っすぐになって、本当に意図した通りの結果が得られました。

開き角は左右の目盛りで合わせて、角度としては40度から45度のあいだくらい。サイドロッドはハンドルのロアー(ブッシング)の位置まで下げてます。

オススメ………オススメってなんですか???(哲学)

そして迎えた2021年4月。大貫選手のDYNASTYプレイヤー加入と同時に、シグネチャーモデルであるMIZUNARAグリップも発表になりました。

ひとつも売れなかったらどうしよう。

いやいや大丈夫ですって!

いやほんとに。ご迷惑かけたらどうしようって……。

じゃあ折角なのでこの場で宣伝でもしておきましょうか。オススメポイントはどんなとこですか?

わからない……オススメポイントってなんだろう……。

(今日一で声小さいな……)「ほかのグリップとここが違うよ」っていうところを教えてもらえたら、それがオススメのポイントなのでは。

なるほど。そういう意味では、僕が使うことが前提なので、基本的には下押しの選手が使いやすい形になっています。

一般的なハイグリップでピボットより低いところを押すと、ウィンドウのテーブル(グリップ上部、ハンドルのL字に抉られている部分。側面にレストが装着される)のわきから人差し指がグリップの上に出てしまうんです。それを防ぐために僕は親指の位置を下げています。

MIZUNARAは親指側に傾斜して低くなっていくのに加え、親指のスペースが広くとられて違和感なく低くすることができます。

同じくうちから出ているMK用グリップ<MOTORO>とは正反対の設計と言えるかもしれませんね。MOTOROグリップはピボットの一点で確実に押すため、親指の空間が狭く、指をまっすぐに矯正するような設計になっています。

グリップはひとりひとりベストな形が違いますから。選択肢が増えるのはいいことだと思います。

MIZUNARAはシャープでまっすぐ押しやすい形なので、私はピボットで押す方にも使っていただけるんじゃないかなと思いますね。自由度の高いデザインだと思います。
ところで気になってたんですけど、MIZUNARAという名前の由来は?

(加藤)健資さんに「ぬっきーの好きなウィスキーなに?」って聞かれたことがあって(大貫選手は大のウィスキー好き)、そのとき「シーバスリーガルミズナラですかね」って答えたんですよね。

え!? もしかしてそれで……?

それで。あ、そのときのLINE見ます?

「え?」ってなりましたね……。このスピード感すごいな……と。
次はもっと考えて答えようと思います(笑)

(※この記事を書いているあいだに2つ売れました。ご購入いただいたお客様ありがとうございます!)

世界選手権2種目制覇。それができるのは僕しかいない

最後になりますが、世界ターゲット選手権初出場の意気込みと、ファンの皆さんへ向けてのメッセージをお願いします。

ターゲットアーチェリーでは初の世界選手権ですが、フィールドアーチェリーでは金メダルを獲っています。
日本人で世界選手権2種目制覇できるのは僕だけなので、貪欲に狙っていきたい。

(フィールドで金を獲った)約3年前と比べ様々な経験を積み、成長してきたと感じてます。また道具の面でもサポートして下さる方が増えていて、最高の状態をキープできています。自分のアーチェリーをすることで自ずと結果はついてくると信じ、これからの練習に取り組みます。

いつも応援してくださってる皆様、本当にありがとうございます!
たくさんの応援があったから、辛い時も苦しい時も乗り越えて、それらを楽しい思い出にすることができています!
これからもぬっきーは頑張ります!
よろしくお願いいたします!

本日はお時間いただきありがとうございました!